擁壁とは、高低差のある土地が崩れないように設置された壁のことです。傾斜地や道路より高台になった土地に建物を建てる際に必要となります。住宅購入を検討している方や、家を建てる土地を探している方の中には、擁壁がどのようなものか分からない方もいるでしょう。
この記事では、擁壁の概要や役割などの基本情報から、擁壁の代表的な種類、擁壁のある住宅を選ぶ際の3つの注意点までを解説します。関連する法律や費用、トラブルについても触れるため、ぜひ参考にしてください。
1.擁壁とは?
擁壁とは、高低差のある土地において側面の崩れを防ぐための構造物を指します。
擁壁は、傾斜地上に住宅などの建築物を建てる際や、建物を建てる敷地部分が道路より高い場合に設置が必要です。
以下では、擁壁の役割と擁壁に関する法律について詳しく解説します。
1-1.擁壁の役割
擁壁の主な役割は、以下の2つです。
・土砂崩れを防ぐ
丘や高台の上に建物を建設する場合、建物の重みによる圧力・負荷が原因となって土砂崩れが起こる可能性が高くなります。また、丘や高台の下に建物を建てる場合は、雨水の水圧や地震による土砂崩れで建物が崩壊する恐れがあります。
いずれの状況でも、擁壁を作っておくことで土地側面を崩れにくくすることが可能です。自然災害が起きた際にも、建物に及ぶ被害を最小限に抑えられるでしょう。
・日当たりを確保する
擁壁の設置は高低差のある土地の補強として必要とされるケースがほとんどですが、日当たりが悪い平坦な場所に建物を建てる際にも有効な対策となります。盛土をして擁壁を作ることで敷地を高くできるため、日当たりを確保しやすくなります。
1-2.擁壁に関する法律
擁壁に関する法律として挙げられるのは、「宅地造成等規制法」や「建築基準法」などです。それぞれの法律では、土砂崩れが起こる危険性が高い地域における擁壁の扱いや規制について定められています。
これから擁壁が必要な土地において住宅を建設・購入する人は、法律の内容や地域の条例などもチェックしておきましょう。
2.擁壁の種類
擁壁には複数の種類があり、種類によって使用される素材や工法、メリットなどが異なるのが特徴です。近年よく見られるのは、鉄筋コンクリートで作られたL字型の擁壁となります。
家づくりにあたって擁壁の設置を検討している人は、それぞれの擁壁の特徴やメリットなどを十分に把握しておくことが重要です。
ここでは、各擁壁の特徴や種類ごとの違いについて詳しく解説します。
2-1.コンクリート擁壁
コンクリート擁壁にはさまざまな構造があり、敷地の形状や擁壁の設置位置などを考慮してどの構造を採用するかが決定されます。
コンクリート擁壁の構造の例として挙げられるのは、以下の通りです。
L型擁壁 |
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L型擁壁はコンクリート擁壁の中でもっとも一般的な構造です。敷地境界線の道路側にL字の角部分を設置することで、敷地スペースを広く使うことが可能となります。 |
逆T型擁壁 |
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道路に面するスペースを駐車場としてその奥に擁壁を設置するなど、境界線と擁壁との間にゆとりがあるケースで採用される構造です。 |
重力式擁壁 |
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擁壁が低い場合や基礎地盤が良好な場合に採用される構造です。擁壁の崖に接する面を敷地側に傾けることで、擁壁自体の重さにより土圧に抵抗して土砂崩れを防ぎます。重力式擁壁では無筋コンクリートが使用されることが多い傾向です。 |
もたれ式擁壁 |
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山岳道路などで採用される構造であり、擁壁の山に接する面を山側にもたれかからせる形で傾けて設置します。擁壁背後には砂利などを詰めておき、水抜きパイプが設置されます。 |
2-2.ブロック積擁壁
ブロックを積み上げ、隙間をコンクリートで埋めながら壁状に仕上げる擁壁です。ブロック積擁壁は高速道路などにも設置されており、「石垣をブロックで作ったもの」と考えるとイメージしやすいでしょう。
ブロック積擁壁の代表的な種類には、「間知ブロック練積み造擁壁」と「間知石練積み造擁壁」があります。
間知ブロック練積み造擁壁は、間知ブロックを積み上げた擁壁です。表面をタイル張りにすることで、見た目を美しく整えられるのが特徴となります。また、一定の基準を満たせば、5mの高さまで積み上げられるという点もメリットです。
対して、間知石練積み造擁壁は30cm角ほどの石を積んだ擁壁であり、昔ながらの和の雰囲気を感じられる見た目に仕上がるのが特徴です。
注意点として、ブロック積擁壁は敷地側に傾けて斜めにブロックを積み上げる構造であるため、敷地面積が狭くなりやすいことを押さえておきましょう。
2-3.補強土壁
補強土壁とは、盛土内に補強材を備えることで、地面に垂直、または垂直に近い壁面を作り上げる方法です。
補強土壁のメリットは、耐震性に優れた丈夫な擁壁が設置できる点です。一方で、補強材の使用に制限があること、補修が難しくなることがデメリットとして挙げられます。
3.擁壁のある住宅を選ぶ際の注意点
擁壁は設置してしまえば終わりというわけではありません。マイホーム購入にあたって、候補地に擁壁がある、または擁壁が必要となる場合は、擁壁設置における注意点やトラブルについても把握しておくことが重要です。
ここでは、擁壁のある住宅を選ぶ際の注意点について解説します。
3-1.擁壁の工事費用
擁壁工事費用は、斜面の角度や擁壁の高さ、土地の形状などのさまざまな要因に左右されるのが特徴です。工事費用は、擁壁そのものの価格と土工事の費用の2つに分けられます。
擁壁そのものの価格は、1平方メートルあたり数万〜十数万円が相場です。土工事の費用は工事ごとに大きく異なり、工事に伴う通行制限の有無や、資材の運搬にかかる人件費などにより決定されます。
自治体によっては擁壁工事に関する補助金・助成金を設けているケースもあるため、条件などを確認しておきましょう。
3-2.不適格擁壁
不適格擁壁とは、現在の建築基準法の施行前に作られた古い擁壁や、検査済み証などの確認書類が発行されていない擁壁を指します。
擁壁付きの分譲地や住宅を購入する際は、擁壁が不適格擁壁に該当するかどうかを必ず確認しましょう。不適格擁壁に該当する場合、擁壁改修工事の費用負担が必要となります。
購入する土地の擁壁が不適格擁壁に該当するかどうかの確認方法は、検査済み証の発行有無をチェックすることです。購入前に不動産会社や住宅会社に問い合わせるか、市役所で検査済み証が発行されているかどうかを調べましょう。
また、建築基準法の施行後に作られた擁壁であっても、老朽化の進行により安全基準を満たさない擁壁は不適格擁壁に該当します。ひび割れや剥がれ、漏水などが見られる場合は補修工事を検討しましょう。
3-3.擁壁トラブル
擁壁は、建物と同じように経年劣化により脆くなります。また、建物と擁壁との距離が近いケースでは、地盤の緩みにも注意が必要となります。
擁壁トラブルを回避し安心して暮らすには、物件購入前に専門業者に安全性のチェックを依頼するのがおすすめです。擁壁そのものの安全性調査と地盤調査を実施し、必要があれば補修工事などの対策を取りましょう。
また、隣地との境界に擁壁がある場合、敷地所有者同士で擁壁の補強工事が必要となった際の費用負担割合を決めておくことがポイントです。擁壁の劣化が深刻化する前に工事の目安時期や費用負担について話し合っていれば、補強工事の依頼から費用支払いまでをスムーズに進められるでしょう。
まとめ
擁壁には土砂崩れを防いだり、日当たりを確保したりといった働きがあります。擁壁の種類には、コンクリート擁壁・ブロック積擁壁・補強土壁などがあり、特にコンクリート擁壁のL型擁壁が多く見られます。
擁壁のある住宅を選ぶ際は、工事費用や不適格擁壁、擁壁トラブルに注意が必要です。中でも不適格擁壁は、現行の建築基準法施行前に作られたものや、検査済みの確認書類が発行されていない物を指し、該当する場合は改修工事が必要となります。あらかじめ、検査済み書類が発行されているか不動産会社に確認しておくとよいでしょう。