分譲住宅や建売住宅を購入する場合と異なり、注文住宅を建築するためには土地を持っていることが前提となります。そのため、土地を持っていない人が注文住宅を希望する場合、まず土地を探して購入することと、工務店探しを同時に行わなければなりません。
この記事では、土地なしで注文住宅を建てる流れと、土地探しで失敗しないコツを解説します。「土地なし」「土地あり」でそれぞれ必要となる建築費用の相場や、土地購入費用で利用できる住宅ローンも紹介するため、ぜひ参考にしてください。
1.土地なしで注文住宅を建てる場合の流れ
土地を持っていない状態から注文住宅を建てる場合、まず土地探しから始めなければなりません。ここでは、土地の探し方から入居までの流れについて、簡単に紹介します。
(1)実現したい暮らしをイメージする
いきなり土地を探し始めるのではなく、自分たちがどのような家でどのように暮らしたいかを具体的にイメージしましょう。
(2)予算・資金計画を立案する
現在の貯蓄と親族からの援助で用意できる自己資金、および住宅ローンの借入額を合計し、家全体の予算総額を算出します。
(3)土地を探す
土地の購入に使える費用が算出できたら、希望する居住地域周辺で注文住宅を建てられる土地を探します。具体的な土地の探し方については、下記のリンクを参考にしてください。
(4)工務店を探す
土地探しと並行して、居住予定地域が施工エリアに入っている工務店を探します。施工する建築会社が指定された建築条件付きの土地を選ぶ場合、この工程は必要ありません。
(5)土地の調査・購入に進む
住みたい土地が見つかったら、その土地が希望通りの家を建築可能な状態にあるか、敷地調査・地盤調査を行います。土地の状態によっては追加工事が必要です。問題ない・納得できる状態であれば、購入を申し込みましょう。
(6)間取りの打ち合わせ・見積り依頼を出す
購入する土地の状態に合わせつつ、自分たちが理想とする家づくりに向けたプランニングを行います。土地の調査・購入と並行すると建築計画を立てやすいでしょう。
(7)工事契約を締結する
複数社から見積もりを取り、細部まで入念に比較することが理想的です。工務店が提示する建築プランに納得できたら、正式に建築請負契約を締結しましょう。
(8)詳細について打ち合わせる
契約を交わした工務店と打ち合わせを重ね、建築プランの詳細を詰めます。建築確認申請後は建築プランを変更できないため、この時点で計画を完成させておくことが大切です。
(9)建築確認を申請する
工事契約を締結して建築プランが固まったら、市区町村へ建築確認を申請します。審査を通過し、建築確認済証が交付されれば、工事への着工が可能です。
(10)住宅ローンを申し込む
金融機関へ土地売買契約書・工事請負契約書・建築確認済証などの写しを提出し、住宅ローンの本審査を受けましょう。
(11)住宅の工事が開始される
自己資金・住宅ローンによって土地の代金を支払い、正式に引き渡されたら、いよいよ工事開始です。地域によっては、着工前に地鎮祭が行われます。
(12)住宅が竣工し引き渡される
住宅が竣工したら、工務店の担当者や現場監督とともに、建築プランとの相違や問題点がないか詳細に確認します。建築主事などによる完成検査をクリアし、検査済証の交付をもって工事終了です。建築費用の残金を支払い、新居を受け取りましょう。以上が、土地を持たない人が注文住宅を建てる際の大まかな流れです。流れの詳細を知りたい場合は、下記のページを参考にしてください。
2.「土地なし」「土地あり」で注文住宅を建てる場合の費用
注文住宅購入にかかる費用は、「土地なし」と「土地あり」で大きく異なります。基本的に「土地なし」で注文住宅を建てる場合、新たに土地を購入する必要があるためです。ここでは、「土地なし」と「土地あり」の場合に分けて、平均的な費用のデータを比較して紹介します。
下記は、「土地なし」と「土地あり」で注文住宅を建てる際にかかる費用の目安です。
「土地あり」で注文住宅を建てる場合の費用 | |
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全国平均 | 3,534万円 |
首都圏 | 3,808万円 |
近畿圏 | 3,746万円 |
東海圏 | 3,606万円 |
その他の地域 | 3,356万円 |
「土地なし」で注文住宅を建てる場合の費用 | |
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全国平均 | 4,397万円 |
首都圏 | 5,162万円 |
近畿圏 | 4,540万円 |
東海圏 | 4,412万円 |
その他の地域 | 3,949万円 |
所有する土地に注文住宅を建てる場合、全国平均で3,534万円の費用がかかります。土地を購入して注文住宅を建てる場合の費用は4,397万円となっており、その差額は863万円ほどです。一方、首都圏で注文住宅を建てる場合、「土地あり」と「土地なし」で必要な費用の差額はおよそ1,354万円に上ります。一概には言えないものの、首都圏であれば1,500万円程度、首都圏以外の場合は900万円程度を見ておけば、土地を選ぶ際の選択肢が十分に広がるでしょう。
また、「土地あり」と「土地なし」では、必要となる手持金(頭金)の金額も異なります。下記は、「土地あり」と「土地なし」で注文住宅を建てる際に用意する手持金の目安です。
「土地あり」で注文住宅を建てる場合の手持金 | |
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全国平均 | 619万円 |
首都圏 | 749.8万円 |
近畿圏 | 651.6万円 |
東海圏 | 625.4万円 |
その他の地域 | 555.6万円 |
「土地なし」で注文住宅を建てる場合の手持金 | |
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全国平均 | 440.5万円 |
首都圏 | 534.8万円 |
近畿圏 | 433.5万円 |
東海圏 | 423.2万円 |
その他の地域 | 398.1万円 |
手持金の場合、「土地あり」のほうが「土地なし」に比べて高額となる傾向にあります。全国平均で見ると、注文住宅の購入費用に対して「土地あり」は17.5%、「土地なし」は10%の手持金が必要となるケースが一般的です。
3.土地なしで注文住宅を建てる場合の5つのコツ
土地なしで注文住宅を建てる場合、土地探しに関していくつかのコツがあります。額面だけを基準に土地を購入してしまうと、家を建てる段階になってから後悔する可能性もあるため注意が必要です。ここでは、注文住宅の建築に際して、土地探しの段階で押さえておくべきコツについて紹介します。
3-1.土地と建物の予算配分は慎重に行う
予算の総額から、土地や建物にどの程度振り分けるかのバランスは重要です。また、土地そのものの代金以外にも、下記の費用がかかります。
- ●印紙税
- ●登録免許税
- ●不動産取得税
- ●固定資産税
- ●都市計画税
- ●不動産会社への仲介手数料(不動産会社から土地を購入する場合)
- ●司法書士への報酬(登記手続きなどを依頼する場合)
- ●消費税
- ●ローン契約の手数料
諸費用の金額は、土地代金のおよそ5%が目安です。つまり、1,000万円の土地を購入する場合、土地代金として1,050万円の資金が必要と考えてよいでしょう。さらに、建物本体工事費用に加えて下記の費用が発生します。
- ●付帯工事費用
- ●その他費用
そのため、土地と建物だけを考えて費用を計算すると、予算オーバーとなりかねません。注文住宅で資金計画を立てる際は、各価格・工事に加えて諸費用がかかることを念頭に置き、余裕を持った予算配分を行いましょう。
3-2.建てたい家のイメージを固めながら土地を探す
土地探しでは、どのような家を建てたいか明確にすることが重要となります。理想とする家の形状や機能によって、実際に建てられる土地が限定されるケースがあるためです。
例えば、大きな平屋の家を建てたい場合、都市部などでは土地価格が予算と合わなかったり、十分な面積の土地自体が手に入らなかったりします。他にも「地盤が弱いことや地下水位が高いことが理由で地下室が作れない」「地域の高さ制限に引っかかって3階建てが建てられない」といったケースもあります。
建てたい家のイメージを固めることで、予算とのバランスを取りつつ、希望通りの家を建てられる土地を見つけやすくなります。
3-3.土地探しと工務店探しは一体的に進める
土地の購入と工事契約の締結は、ほぼ同時に行うことが理想的です。希望通りの場所と価格の土地を見つけても、工務店が決まっていなければ、住宅ローンの本審査に申し込むことができません。また、建築プランだけ決まっていても、土地が見つからなければ工事開始は不可能です。
そのため、居住を希望するエリアで購入可能な土地を探すのと並行して、その地域で施工可能な工務店を探しましょう。早めに相性のよさそうな工務店を複数ピックアップし、購入したい土地を見つけたらすぐに見積もり依頼を出すとスムーズです。
また、工務店の中には、地元の不動産情報に精通している会社もあります。土地を探す際は、不動産会社だけでなく工務店の情報網にも目を向けるとよいでしょう。
3-4.追加工事が必要な土地に注意する
土地の形状や立地によっては、追加工事を行うことになります。工事の内容次第では想定外の追加費用が発生するため、契約を交わす前に土地の状態を確認しましょう。
下記は、事前にチェックしておきたい項目の例です。
- ●地盤改良工事が必要か
- ●ブロック塀の補強工事が必要か
- ●インフラ設備の整備工事が必要か
- ●土地に高低差がないか
- ●技術的な制約がないか
- ●地下を掘ることができるか
- ●高さに制限があるか
地盤改良工事が必要になる場合は、100万円以上の出費増もあり得ます。建築プランの変更で対応できる場合もあるため、入念な確認が必要です。
3-5.土地を購入する際には必ず現地を歩いてみる
土地を購入する際は、図面やインターネットからの情報収集だけでなく、現地に赴いて自分の目で敷地の状態と周辺環境を確かめることが大切です。ポータルサイトなどでは土地のマイナス要素が分かりにくいことも多く、「実際に見てみたら認識と違っていた」という場合があります。
下記は、現地を歩く際にチェックしたいポイントです。
- ●土地の日当たり・風通しはよいか
- ●近隣住宅の家屋・庭木は手入れが行き届いているか
- ●周辺に古家・空家がないか
- ●隣家との境界線が明確になっているか
- ●前面道路の幅員は4m以上あるか
- ●前面道路との間口は2m以上あるか
- ●接続されている道路は公道・私道のどちらか
- ●工事に使用できる道路に車両制限があるか
特に、周辺道路とのアクセス事情は見落としやすい傾向にあります。敷地に続く道が狭かったり、通行できる車両に制限があったりすると、大型の工事車両が使用できません。小型車にすることで工事の時間や手間、利用台数が増えると、人件費などが割高となるケースもあるため注意が必要です。
4.注文住宅を建てるための土地購入費用は住宅ローンで支払える?
住宅を建てるには、まず土地がなければなりません。そのため、土地を持っていない人が注文住宅を建てる場合、土地を先に購入する必要があります。
土地の購入費用は高額です。即金で購入できれば問題ないものの、多額の現金をすぐに用意できる人ばかりではないでしょう。多くの人が考えるのは、「土地の購入費に住宅ローンを使えないか」ということです。それでは、本来「家を建てるため」に組む住宅ローンは、「土地を購入するため」に使えるのでしょうか。
各金融機関で組める住宅ローンは、下記の目的でのみ利用できます。
- ●自分が住むための住宅を建てる
- ●自分が住むための住宅を購入する
- ●自分が住むための住宅を増改築する
- ●住宅ローンを借り換える
つまり、住宅ローンが利用できるのは基本的に「建物」の建築のみ、もしくはすでに借りている住宅ローンを借り換える場合のみです。また、融資開始は注文住宅完成後の引き渡しと同じタイミングになります。原則として他の用途に使うことはできないため、別の借り入れ方法を用いて土地購入資金を捻出しなければなりません。
4-1.土地の購入に利用できるローン
土地の購入に利用できるローンには、「つなぎ融資」と「土地先行融資」があります。
●つなぎ融資
つなぎ融資とは、住宅ローンの融資開始までに必要な費用を短期融資として借り入れられる仕組みのことです。土地の購入費用だけでなく、着工金や中間金の支払いにも使えます。つなぎ融資の返済は、住宅ローンが実行されたタイミングとなるケースが一般的です。つなぎ融資のメリットとデメリットは、下記の通りとなります。
【つなぎ融資のメリット】
- ●抵当権の設定が必要ない
- ●無担保でも融資を受けられる
- ●少ない自己資金でも土地を購入できる
- ●住宅建築の着工金や中間金などにも利用できる
つなぎ融資で土地や建物の抵当権を設定する必要が生じるのは、住宅ローンが実行されるときの1回のみです。そのため、登記費用などが抑えられる上に担保も必要ありません。
【つなぎ融資のデメリット】
- ●金利が高く設定される
- ●住宅ローン開始まで利息の支払いが必要となる
- ●住宅ローン控除の対象外となる
金融機関にとって担保のないつなぎ融資はハイリスクとなるため、金利が高くなる傾向にあります。また、住宅ローン控除も利用できません。
●土地先行融資
土地先行融資は、住宅を建てる土地の購入費用を先に融資してもらえる仕組みのことです。建物完成にともなって、建築費用分の融資が開始されます。土地先行融資のメリットとデメリットは、下記の通りです。
【土地先行融資のメリット】
- ●住宅ローン控除の対象となる
- ●金利が低く設定される
土地先行融資では、土地に抵当権を設定する必要があるため、無担保で借りられるつなぎ融資と比較して金利が低くなります。また、複数の要件を満たす必要があるものの、住宅ローン控除を受けることが可能です。
【土地先行融資のデメリット】
- ●諸費用がかかる
- ●着工金や中間金には使えない
土地先行融資では、土地に抵当権を設定する際、登記費用などの諸費用が必要となります。また、住宅建築の着工金や中間金は、別途調達しなければなりません。
つなぎ融資と土地先行融資ではメリット・デメリットが異なるため、それぞれの特徴を踏まえた上でどちらを利用するか選ぶことが大切です。
4-2.ローンで注文住宅を建てるための土地を購入する流れ
最後に、ローンで土地を購入する際の大まかな流れを確認しましょう。
(1)土地の評価を行う
つなぎ融資・土地先行融資ともに、土地の評価によって受けられる融資額が決まります。土地の評価基準は下記の4つです。
●公示地価
国土交通省が年に1度公示しています。主に都市計画区域内を対象とする、土地売買の指標です。
●基準地価
都道府県が公示しています。都市計画区域外も対象であり、全国の基準地で算出する標準価格です。
●路線価
国税庁が年に1度公示しています。道路に面した土地1m2当たりの基準であり、一般的な評価額は公示地価の80%程度です。
●固定資産税評価額
評価基準を国が定め、最終的な評価額は自治体が判断します。3年に1度の頻度で公示され、一般的な評価額は公示地価の70%程度です。
不動産会社では上記の評価基準に加え、土地所有者の希望や過去の類似取引例をもとに評価を行う傾向にあります。
(2)買付証明書を提出する
不動産会社に買付証明書を提出することで、土地購入の優先権を手に入れられます。あくまでも意思表示であり正式な契約ではないため、キャンセルが可能で手付金なども発生しません。
(3)住宅ローンの事前審査を受ける
住宅ローンを利用する場合、土地の売買契約を締結する前に金融機関へ事前審査を申し込みます。土地の購入に土地先行融資を利用する場合は、住宅ローン審査に土地の資料と建築プランの提出が必要になることがあります。つなぎ融資の場合は、住宅ローンとは別に土地へ対する融資の審査を受けます。
(4)土地の売買契約を締結する
住宅ローンや融資の審査を通過したら、不動産会社から重要事項の説明を受けます。内容や条件に問題がなければ、契約を締結しましょう。
まとめ
土地を持っていない人が注文住宅を建てる場合、土地を探すことから始めなければなりません。「土地あり」と「土地なし」では、注文住宅の購入総額に差が生じます。また、土地によっては技術的な制約があったり、追加工事が必要となったりするため、慎重に選びましょう。
土地探しの際は、「いくらまでなら土地に予算をかけられるのか」「どのような家を建てたいのか」を考えて、現地を必ず確認することが大切です。また、住宅ローンは土地の購入費用をまかなうのに借りることができないため、つなぎ融資や土地先行融資などの方法も検討しましょう。