家の間取りを検討する際、人がどのように動くか、「動線」を考えることで使いやすく過ごしやすい家になります。動線の1つに「回遊動線」があり、取り入れることで家事の負担を減らしたり、家の中を移動しやすくなったりするためおすすめです。
当記事では、回遊動線とは何か、取り入れ方や間取りを考えるときの注意点について解説します。移動がスムーズにできて、使いやすい間取りの家を建てたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
1. 間取りを考えるとき取り入れたい回遊動線とは?
回遊動線とは、家の中に行き止まりがなく、どの部屋・どの通路からでもすべての場所へスムーズに移動できる動線のことです。
昔ながらの日本家屋に多い、部屋同士が襖で仕切られただけの設計や、中庭を通じてどの部屋にでもアクセスできる設計も回遊動線の1つに挙げられます。家全体に回遊動線を取り入れる設計の他、水回りなど一部だけに設けることも珍しくありません。
ここでは、注文住宅設計に回遊動線を取り入れるメリットを紹介します。
1-1. 回遊動線を取り入れるメリット
回遊動線を取り入れるメリットは数多くありますが、特に代表的なのは下記の3つです。
家事の負担が減る |
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毎日の家事で必ず使う場所の回遊性が高ければ、移動の手間が大幅に省けます。干した洗濯物をすぐに片付けられるような近道を用意しておくのもよいでしょう。 また、玄関とリビングの間に浴室やクローゼットを通れる動線があれば、帰宅後そのまま手や身体を洗って着替えられ、汚れをリビングに持ち込まずに済みます。買い物から帰ってすぐ食品を冷蔵庫にしまうといった流れも、回遊動線を間取りに取り入れることで作業効率が上がります。 |
混雑が起きにくい |
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回遊動線があれば、目的地への移動経路が複数存在するため、家族が出入り口付近で用事がかち合った場合でも、混雑しにくくなります。例えば洗面所への出入り口が2か所以上あれば、1人が歯磨きをしている間にもう1人が反対側から出入りして洗濯物を干しに行く、といった行動も容易です。 |
プライバシーを確保できる |
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家全体を自由に行き来できる回遊動線は、快適性が高い反面プライバシーを確保しにくい印象があります。しかし、家族のライフスタイルを考慮して回遊動線を設ければ、利便性は保ちつつそれぞれのプライバシーを守れる家づくりが可能です。また複数の経路から動線を選べるため、来客時にも気を使わず移動できる点もメリットと言えます。 |
2. 回遊動線を意識した間取り例
一口に回遊動線と言っても、家の大きさや形、家族の人数やライフスタイルによって、適した選択肢は異なります。一般的な住宅の回遊動線として採用されることの多い間取りの傾向は、主に下記の3つです。
- 玄関ホールと水回りをつなげた間取り
- ウォークスルークローゼットがある間取り
- 家事動線も意識した間取り
ここでは、回遊動線を意識した間取りの例を具体的に紹介します。
2-1. 玄関ホールと水回りをつなげた間取り
玄関ホールと洗面所・浴室・トイレ・キッチンなどの水回りをつなげる間取りは、回遊動線の基本と言えるでしょう。
玄関から洗面所や浴室にすぐ行ける動線設計なら、帰宅時の手洗いやうがいが容易になり、衛生的な環境を保てる可能性が高くなります。子どもが遊びや部活で汚れて帰ってきたときも、脱衣所に直行して衣服を洗濯機に放り込み、浴室でシャワーを浴びられるでしょう。
水回りの中でもっとも使用頻度の高い、キッチンを中心に考えて部屋を配置するのもおすすめです。キッチンと玄関ホールまでの動線が短ければ、買い物帰りの重たい荷物もすぐ冷蔵庫にしまえます。料理中の急な来客への対応もしやすく、配達物の受け取りにも便利です。
また、水回りはなるべく近くに集めたほうが配管コストを抑えやすくなるため、一考の余地がある間取りと言えます。
2-2. ウォークスルークローゼットがある間取り
回遊動線の中にウォークスルークローゼットを取り入れる場合、主に下記の7か所が候補として挙げられるでしょう。
【ウォークスルークローゼットの主な設置場所】
- 玄関ホールから洗面所・浴室の間
- 玄関ホールからリビングの間
- キッチンから洗面所の間
- 洗面所からベランダの間
- 寝室からリビングの間
- 寝室から玄関ホールの間
- 寝室から寝室の間
家族構成や人数、年代によってどの場所に収納動線を設けると暮らしやすいかが変化します。また、ファミリークローゼットにするか、家族一人ひとり個別にするかでも利便性や快適性が異なるため、多くの事例を参考にじっくりと比較検討することが大切です。
2-3. 家事動線も意識した間取り
回遊動線を設ける際は、家事動線も意識して間取りを考えましょう。家事動線とは、料理や洗濯、掃除といった家事を行う際に人が動く経路を表した線です。この家事動線を意識せずに間取りを決めてしまうと、毎日の家事効率が悪くなったり、不要な出入り口がデッドスペースと化したりします。
例えば、毎朝料理も洗濯もして外に干す人の場合、回遊動線の経路にはキッチンと洗濯機やクローゼットだけでなく、バルコニーも含めたほうが便利です。反対に、洗濯物はすべて乾燥機で乾かすという人は、バルコニーを省いて設計することもできます。
3. 回遊動線を間取りに取り入れるときの注意点
回遊動線を取り入れた設計をすれば、便利で快適な家の実現につながります。しかし、過ごしやすい家を作りやすい一方で、下記の3点はデメリットになりうるため注意が必要です。
- 広いスペースが必要になる
- コストがかかる
- 収納場所を意識して確保する
ここでは、回遊動線を取り入れた間取りを考えるときの注意点を3つ解説します。
3-1. 広いスペースが必要になる
回遊動線を取り入れた建築プランでは、通常の間取りと比べて多くのスペースを必要とするケースが一般的です。家事動線・生活動線を意識した動線を確保する場合、家族がすれ違える幅の通路や出入り口を設けることになります。
十分な広さの土地を用意できれば問題ありませんが、建物に使用できるスペースが限られている場合、回遊動線の採用により他の部屋や収納に使えるスペースが少なくなります。「広く使いやすい通路」のために「自分たちがくつろぐ空間」が窮屈な住まいになってしまっては、本末転倒です。
回遊動線は、通路の多用以外にも隣接した部屋同士を通路として利用する方法もあります。限られたスペースで回遊動線を取り入れる際は、部屋の優先度を考慮した上でデザインすることが大切です。
3-2. コストがかかる
回遊動線に使用するスペースが増えることで、家自体の広さも大きく設計されます。通路や出入口の数も増えるため、扉などの部材も多く使用することになり、建材費や施工費も増加するケースが一般的です。
また回遊動線で出入口が増えると、完全な壁面が減ることで建物の強度が下がる恐れがあります。もちろん、設計自体は法で定められた耐震基準をクリアしたものとなりますが、さらに強度を上げたいと考えるのであれば、コストアップは避けられないでしょう。
3-3. 収納場所を意識して確保する
回遊動線の利便性だけを考えると、つい家事動線・生活動線を最短距離で結んでしまいがちです。しかし動線のみでレイアウト設計すると、「移動には便利だけれど、ものをしまう場所がない」といった状況に陥りかねません。
回遊動線を確保する場合、1つの部屋に複数の出入口を設けるため、壁面収納が少なくなります。また、部屋の中の移動経路を優先すると家具を置けるスペースが限られ、十分な収納棚を配置できないケースが珍しくありません。
限られた延床面積で回遊導線を作る際は、「通路と収納を一体化する」「共有の収納スペースを設ける」など、移動と利便性の両方を確保することがポイントです。
まとめ
回遊動線とは、行き止まりを作らずにスムーズに移動できるように設計された間取りのことで、家事負担の軽減や混雑緩和の効果があります。家事動線も意識して玄関と水回りをつなげたり、ウォークスルークローゼットを作ったりするのが一般的です。
回遊動線は非常に便利ですが、取り入れるには広いスペースが必要です。かつ建築コストも普通の間取りよりかかりやすいため、十分な検討をしてから取り入れるか決めるのがよいでしょう。